突然の崩壊――無防備な夜中の覚醒
私の目覚めは、多くの場合、今は静かで穏やかです。しかし、ストレスがかかっている時や、心身の調子が少し優れない時など、ごくたまに、あの**「戦慄と孤独の瞬間」**が私を襲います。
それは、深い眠りから突然引き戻されるようにして起こります。夜中にふと目が覚めると、理由もなく胸が締め付けられ、魂が凍るような強い不安感と、底なしの耐え難い寂しさに襲われます。
全身に冷や汗が走り、心臓はコントロールを失ったかのように激しく打ち鳴らされ（動悸）、呼吸は浅く速くなり、まるで水中にいるかのように息苦しくなります（息切れ）。抵抗しようにも、感情の濁流に飲み込まれ、とめどなく涙がボロボロと溢れてくるのです。
この発作的な感情の波は、私にとって病名の羅列ではありません。これは、遠い幼い頃の記憶と深く結びついた、私の過去そのものが再現されていたのです。
制御不能なSOS―深夜に叫んだ「切実な救済要求」
私の幼少期は、両親が毎晩深夜近くまで帰宅しない日々が常態でした。幼い子どもにとって、夜の暗闇は何よりも恐ろしいものです。
この状況は、「何かあったときに誰も助けてくれないかもしれない」という根源的な見捨てられ不安を心に深く刻み込みました。
昼間は「いい子」でいるために、寂しさや不安を必死に「我慢する」ことで抑え込んでいました。しかし、夜が深まり、理性の堤防が緩むと、その感情のエネルギーは制御不能になりました。
私は、衝動を抑えきれなくなり、家の外に出て大声で**「お母さーん！ お母さーん！」**と何度も泣き叫びました。
「一人にしないで」という魂の叫び
その時の私の心を支配していたのは、「どこにいるの？」「寂しい」「私を一人にしないで」という、切実な救済要求だけではありませんでした。
同時に、「両親は事故をしていないだろうか」「無事でいてくれるだろうか」という、幼いながらに抱えきれないほどの、強い安全への不安が渦巻いていたのです。
それは、私にとって必要不可欠な、安全を担う存在を失うかもしれない恐怖でした。
安全基地の不在と、その生存に必要な存在への不安が混ざり合った、魂の悲鳴でした。愛と安心を求める、飢餓のような叫びでした。
しかし、この衝動的な行動は、また新たな苦しみを生みました。近所の方が心配して優しく声をかけに来てくれるたびに、私は猛烈な罪悪感に苛まれました。
「こんな迷惑をかけて申し訳ない」「こんなことをする自分はダメだ」と、頭ではわかっているのです。
それでも、心の中の**「一人でいるのが怖い」という想いと「無事でいてほしい」という不安**が勝り、衝動的に暴走してしまう。
この「止めたいのに止められない」という自己制御の欠如と、強い罪悪感の板挟みこそが、私の心の土台を深く形作っていきました。
大人になった夜中、幼少期の心が蘇るメカニズム
なぜ、長年抑圧し、我慢し続けてきたはずのあの頃の「寂しい」という感情が、大人になった今、よりにもよって夜中に目が覚めた瞬間に爆発するのでしょうか。
これは、私たちの心が築き上げてきた**「理性」や「我慢」の壁**が、夜間の中途覚醒時という無防備な瞬間に、最も薄くなるからです。日中、懸命に抑え込んでいる感情エネルギーの「ダム」が、防衛力が落ちた瞬間に決壊してしまうのです。
夜中に感じる強い不安感と強い寂しさ、そして止まらない涙は、まさに深夜に泣き叫んでいた「あの頃の私」の感情の圧力そのものです。当時の「見捨てられた」「一人ぼっちだ」という孤独な感覚が、感情のフラッシュバックとして、時間を超えて私の身体と心に再現されているのです。
動悸や息切れといった身体症状は、この抑圧された不安が自律神経系にまで達している証拠であり、私の心が長年、どれほどの重圧に耐えてきたかを物語っています。あの夜の切実な**「一人にしないで」という叫び**を、私の体が今、必死に訴えかけているのです。
回復への光—孤独な子どもを救う「内なる大人」
この一連の経験は、あなたが弱いから起こるのではなく、幼少期の環境が刻んだ**「心の体質」**に根ざしていることを示しています。しかし、この傷は必ず癒すことができます。なぜなら、私自身がその道を歩んできたからです。
私の場合、大人になって心の痛みを理解し、支え、変えてくれた人との出会いがありました。そのサポートを受けながら、約10年近くの期間をかけて、少しずつ感情のパターンを理解し、自己を安定させるトレーニングを積んでいきました。
その結果、今では、時々この夜間の不安や寂しさに襲われることはあります。一時期はパニックに陥りそうになりますが、そこで大きな変化が起きています。
それは、内側に育った**「冷静な自分」**の存在です。
この「内なる大人」が、「大丈夫だよ」「怖くないよ」「寂しかったね」と、あの夜中に泣いていた幼い自分に優しく声をかけていくのです。この自己対話を通じて、感情の暴走は食い止められ、徐々に落ち着きを取り戻すことができるようになりました。
過去のように、出口の見えない苦しみに溺れ続けることは無くなったのです。
あなたは一人ではない、回復は可能である
あなたが夜中に感じる不安や涙は、あなたの弱さではなく、過去のあなたが**「ようやく気づいてほしい」**と語りかけているメッセージです。
私の経験は、愛着の傷は、大人になってからでも、新しい安全な関係性や長期的な自己理解の努力によって必ず癒せることを証明しています。専門的な知識や心理療法（スキーマ療法など）は、この「内なる大人」を育てる上で強力なツールとなります。
もし今、あなたが夜中の孤独に苛まれているなら、あなたは決して一人ではありません。あなたの辛い過去は、回復への力へと変わります。過去の傷と向き合い、適切なサポートを得て、内側に「優しい大人の声」を育てることで、無防備な夜中でも安心して眠りにつける未来を、一緒に築いてけたらいいなと思うのです。
