社会人になり、家庭を持ち、独立して生活している。それでもなお、親からの干渉や心配、指示や束縛に悩まされている人は少なくありません。
「親のことは大切。でも、ずっと言うことを聞いて生きていくのは苦しい」
「放っておきたい気持ちと、見捨てる罪悪感の板挟みで疲れ果てている」
この記事では、そんな悩みに直面する大人に向けて、アドラー心理学の視点を交えながら、親子関係の“心の距離の取り方”を考えていきます。
■ 親が「大人になった子どもを束縛する」理由
アドラー心理学では、人の行動には必ず目的があるとされます。
親の過干渉にも「子どもを心配している」という“建前”の裏に、本当の目的が隠れていることがあります。
● 自分の不安を解消したいという“目的”
老いへの不安や孤独感、存在価値の揺らぎ──。
子どもに干渉することで、親は「まだ私は必要とされている」という安心を得ようとします。
● 自分の価値観を押しつけることで安心したい
アドラーは「すべての悩みは対人関係の悩みである」と述べました。
親は“正しいことを教える”という形で関係を維持しようとすることがあり、それが子どもにとっては束縛として感じられるのです。
■ 束縛と罪悪感──あなたが苦しいのは、優しいから
「冷たくしたくない」「親に嫌われたくない」
そう思って言いたいことを我慢する。その結果、自分の人生にブレーキをかけてしまっていませんか?
アドラー心理学では、“他者の課題には踏み込まない”という**「課題の分離」**という概念があります。
-
親がどう感じるか
-
親がどれだけ干渉してくるか
それは親の課題であって、あなたが背負うべきものではありません。
あなたの課題は、「自分の人生をどう生きるか」です。
■ 心を守るための「境界線(バウンダリー)」の引き方
健全な親子関係に必要なのは、物理的な距離ではなく“心理的な距離”です。
アドラー的視点を踏まえつつ、次の3つのステップをおすすめします。
1. 感情ではなく「課題」で分けて考える
「親が怒る」→それは親の課題
「自分はどうしたいか」→これは自分の課題
このように線を引くことで、無理な同調や罪悪感から解放されていきます。
2. 自分のペースを優先する
アドラーは“承認欲求を否定”しています。他人(この場合は親)にどう思われるかよりも、自分の意思を優先することが大切です。
LINEは週1回でもいい。電話は月に1回でもいい。
「良い子と思われなくてもいい」という覚悟が、あなたを自由にします。
3. 対等な立場で伝える
親を“上”に見たり、“支配者”として扱う必要はありません。
「私は私の人生を自分で選びたい」と、対等な立場で冷静に伝えること。これが“共同体感覚”を持った対話の第一歩です。
■ 親に「ありがとう」「頑張って」が言えない理由
心の中では感謝しているのに、親に「ありがとう」が言えない。
「頑張って」と応援したいのに、言葉が出てこない。
そんな自分を責めていませんか?
● 過去の関係性による「感情のブロック」
アドラー心理学では、「人は過去にとらわれるのではなく、過去をどう“意味づけ”しているかが大事」と考えます。
「ありがとうが言えない自分」は、過去に親に否定された、あるいは感謝を義務として押しつけられたなどの経験が、今も意味づけとして影響している状態かもしれません。
● そのままの自分でいていい
大切なのは、「感謝を言えない自分」も一つの正直な自分だと認めること。
アドラーは“勇気づけ”を重視します。
勇気づけとは、「今のままのあなたで価値がある」と自分自身に伝えることです。
■ 言葉ではなく“行動”で伝えるという選択肢
感謝や応援の気持ちは、必ずしも言葉にしなくても構いません。
-
実家に顔を出す
-
親の好きなものを送る
-
元気に生きる姿を見せる
アドラー的に言えば、“目的を持った行動”が大切です。
言葉が出なくても、「親に大切に思っていることを伝えたい」という目的が込められた行動は、十分に価値のある表現なのです。
■ 親子関係に「完璧」も「理想」もいらない
アドラーは「人間は不完全な存在である」と前提づけます。
親も不完全、あなたも不完全。それでいいのです。
距離を取ることは、見捨てることではありません。
むしろ、お互いの自由と尊厳を認め合う“成熟した関係”の始まりです。
■ まとめ
-
親の干渉には「不安を解消したい」という目的がある
-
「課題の分離」によって、罪悪感から自由になれる
-
「感謝できない自分」を否定せず、まずは受け入れる
-
言葉ではなく行動で、親への思いは伝えられる
-
完璧な親子関係を目指すより、“ちょうどいい距離”を目指そう
あなたが自分の足で人生を選ぶこと。
それこそが、アドラーの言う「自立」であり、親にとっても本当の意味での“親孝行”なのかもしれません。