ある過去の記憶(高校まで)
家では、亡くなった祖父に代わり、時々「勉強はちゃんと頑張ってるか?」と元校長である叔父が言う。
「はい。がんばっています。」
作り笑顔で適当に返していたあの日まで。
一方、学校では…
「また、これか……」
手元にあるのは、赤い数字で「28」と書かれた数学の解答用紙。見慣れた数字。クラスメイトは、友人たちと楽しそうに帰っていく中、私だけが活気もなく枯れたような気を醸し出しながら帰る支度をする。
「どうせ私なんて…」
当時の私にとって、勉強とは「砂を噛むような作業」でした。教科書を開いても、並んでいるのは記号の羅列。1ページ目を読んでは睡魔に襲われ、3ページ目で「何がわからないのかもわからない」状態になり、絶望して本を閉じる。
授業も起きていようとしても、食事もほとんど入らなかったほどストレスを感じていた私には強烈な睡魔に勝てず、いつも意識を失うようにうたた寝してしまう日々でした。
「自分は、努力という才能さえ持っていない、欠陥品なんだ」
「自分は、頭悪いからできないんだ」
そう本気で思い込んでいました。
挫折のデパートだった社会人
そんな私が、社会人になって直面したのは「大学受験勉強」という高い壁でした。
なぜ、社会人になって受験勉強するのか。それは、ー今の自分を変えたいーそんな思いの一心でした。
最初は、学生時代と同じやり方を繰り返しました。高価な参考書を買い、机にしがみつき、気合で暗記しようとする。でも、やはり続かない。めんどくさい、やりたくない、眠い。
「勉強法」をネットで検索しては、ポモドーロだ、暗記カードだと試してみるものの、どれも数日で挫折。私は「勉強法の迷子」になって、何度も挫折を繰り返していました。
ある晩、疲れ果てて机に突っ伏していた時、ふと思ったのです。 「どうしてゲームなら何時間でもできるのに、勉強は5分も持たないんだろう?」
その答えは、あまりにも単純でした。ゲームには「攻略の快感」があるけれど、勉強には「苦痛」しかなかったからです。
運命を変えた、ある「ひらめき」の瞬間
転機は、ある難しい専門用語を調べていた時に訪れました。
参考書の説明がどうしても理解できず、なかば投げやりな気持ちで、YouTubeの初心者向け動画を流し見しながら、適当に図解をノートに書き写していました。その時です。
「あ……! そういうことか!!」
バラバラだった情報の破片が、脳の中でカチリと音を立てて繋がった感覚。視界が急に開け、背筋に電流が走るような、あのゾクゾクする感覚です。
これが、のちに知った**「アハ体験」**でした。
それまで勉強を「苦行」だと思っていた私の脳が、初めて勉強を「快感」だと認識した瞬間でした。私はこの快感を再現することに、執着し始めました。
「攻略法」を組み合わせて、脳をハックする
「一つの方法」に頼るのをやめました。代わりに、脳に「アハ体験」を強制的に引き起こすための**「組み合わせ」**を作ることにしたのです。
私がたどり着いた、4つの攻略レシピを紹介します。
1. 「わからない」を寝かせる勇気
かつての私は「今すぐ理解できない自分」にイライラしていました。 今は、わからない箇所があっても「まあ、大丈夫。どこかにヒントがあるはず」と考え、あえて先に進みます。別の章を読んだり、お風呂に入ったりしている時に、脳が勝手に情報を繋ぎ合わせ、「あ!」という閃きを運んできてくれるのを待つ。これが**「全体俯瞰 × 放置」**の組み合わせです。
2. メディアをハシゴする
一つの参考書と心中するのはやめました。 「本(活字)」で読み、「動画(視覚)」で流れを掴み、「AI(対話)」に疑問をぶつける。異なる角度から情報を入れることで、脳のどこかのスイッチが必ず入ります。
3. 「自分への実況中継」
机に向かうのが「めんどくさい」時は、ペンを持つのをやめました。 歩きながら、学んだことを誰かに教えるつもりで独り言を言ってみる。「つまりこれはこういうことだよね?」と実況する。言葉に詰まった場所こそが、お宝(アハ体験)が眠っている場所です。
4.イメージング(抽象)と現実(具体)を結びつける
教科書の文字をただ追うのをやめました。たとえば法律の仕組みを学ぶなら、それを「自分の会社のあの部長」や「昨日行ったスーパーのレジ」に当てはめて想像(イメージング)してみるのです。 学生さんで、解剖生理学が苦手と悩んでるなら、自分の体の仕組み、血液の流れなどをありありとイメージするのです。イメージしにくいなら、絵や図を書いていくと現実と結びついていきます。
ー「あ、あの時のトラブルって、この法律で説明がつくんだ!」ー
死んでいた文字情報が、生きた現実の景色と結びついた瞬間、脳は爆発的なアハ体験を起こします。抽象的な概念を、自分の知っているリアルな手触りに変換する。これが最強の定着術でした。
閃きを確信に変える「思考整理のノート術」
アハ体験で「わかった!」と思っても、人間は悲しいほどすぐに忘れてしまう生き物です。その「閃きの瞬間」を脳に刻み込み、いつでも取り出せる武器にするために、私はノートの使い方を根本から変えました。
私が実践しているのは、単なる記録ではなく**「脳を整理し、理解を深めるためのノート術」**です。
① 「自分の言葉」への翻訳作業
教科書の言葉をそのまま書き写すことは、もうやめました。ノートの左側に教科書の要点を書いたら、右側には**「つまり、こういうことだよね?」と、自分が一番しっくりくる言葉**で書き直します。「赤点時代の自分に説明するなら?」と考えながら翻訳するこの作業こそが、最も脳を活性化させます。
② マインドマップと図解で「構造」を可視化する
知識を単なる「箇条書き」で終わらせないのが最大のコツです。私はここでマインドマップや記号をフル活用します。
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マインドマップでつなぐ: 中心にテーマを置き、枝を伸ばして関連キーワードをつなぎます。脳の神経細胞(ニューロン)と同じ放射状の形にすることで、バラバラだった知識が「ネットワーク」として整理されます。
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記号で関係を明確にする: 文章だけでまとめようとせず、矢印(→)や囲み(□)を使って、情報同士の関係性を図にします。「AとBは対立している(A ⇄ B)」「CはDの結果である(D → C)」といった構造がパッと見てわかるようになったとき、脳の中の霧が晴れ、知識が「体系」として定着していきます。
③ 「なぜ?」と「?」を可視化する
「わかった」ことだけでなく、「なぜこうなるの?」という疑問や、「ここがまだモヤモヤする」という違和感をあえてノートに残します。 後で見返したときに、その空白が埋まる瞬間、再びアハ体験が訪れます。
ノートは「正解を書く場所」ではなく、**「自分の思考のプロセスを展示する場所」**だと思うのです。
おわりに:勉強は、自分を愛するための手段
赤点ばかり取っていた高校生の頃の私に、伝えてあげたいことがあります。
「君は頭が悪いんじゃない。ただ、脳の喜び方を知らなかっただけだよ」
勉強ができるようになるとは、単に知識が増えることではありません。「自分という複雑な人間を、どうやったら動かせるか」という取扱説明書を手に入れることだと私は考えます。
今、私は新しいことを学ぶのが趣味にさえなっています。あんなに嫌いだった「勉強」が、今は「自分を自由にするための遊び」に変わりました。
もしあなたが、かつての私のように「自分には無理だ」と膝をついているのなら。 まずは、完璧を目指すのをやめてみてください。そして、小さな「あ、わかった!」を探す宝探しから始めてみませんか?
その小さな閃きの先に、あなたが想像もしなかった「新しい自分」が待っていると信じて…。


