大手の有料老人ホームの中には医師が常駐しているところもあります。といっても、実際には敷地内に診療所があり、そこから、徒歩などでドクターが来てくれるのです。多くの場合、この診療所は、有床診療所であり入院できるようになっています。風邪をこじらせたり、肺炎になったり、あるいは急性胃腸炎や、心不全の悪化など、さまざまなケースで入院して、病状が改善するまで治療が受けられます。そしてもっと高度な医療が必要な場合は関連病院への移送、紹介がドクターによって行われます。こうした診療所の経営は、有料老人ホームの経営母体が行っていることが多く、これゆえに、この診療所の医師にはいろいろな融通が効きます。つまり、杓子定規な運用ではなく、個々のケースに応じたさじ加減をしてくれるのです。これは有料老人ホームの大きなメリットです。若干、入院の期間を延長したりも可能です。ところで、この診療所の医師は、多くの場合、内科医が一人所長として常勤しています。医師の人件費は年収にして一千万から二千万ですし、そう何人もかかえるわけにはいきません。
さらには、夜間の当直医などの人件費もかさみます。大学病院などからの医師に頼んで、アルバイトでも、一泊の当直をしてもらうのに三万ぐらいかかるそうです。これが医師の人件費がかさむ理由です。医師の次に、診療所勤務の看護師の人件費もかかります。夜間の夜勤看護師の人件費も一晩二万ぐらいと高額です。こうした事情があるため、比較的大きな経営母体でないと、有料老人ホームに隣接する自前の診療所は持てないようです。全国に数カ所以上の施設を持っている大きな経営母体の有料老人ホームが、診療所を設置しているのはこういう理由です。ただし、この診療所は一般の人にも解放された形になっているため、施設の老人専用というわけにはいきません。この点で、老人ホーム入居者が文句をいうわけにはいかないのです。診療所があると心強いので、これが入居の決め手になるケースは多いようです。これからの老人ホーム同士の競争に勝つには、診療所の隣接は必須かもしれません。