認知症の世界を生きる人々の思い

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おそらく多くの人が認知症の人と関わることに対して、

「認知症の人との関わり方が分からない」

「同じことを何度も繰り返して言ってくる」

「家にいるのに帰ると言う」

「いきなり怒り出してしまう」

等など、精神的にも身体的にも負担が大きく疲労してしまいます。

また、家族や配偶者の場合は、認知症になる前のギャップも徐々に生まれて受け入れることがなかなか難しく、感情的になりやすくなります。家族や配偶者でもなくても、施設や病院においても感情的になって関わってしまう職員も多いのが現実です。それが、虐待に繋がってくることが多いのです。

それでは、認知症を抱える人々の心の中には、日常生活を送る中でどのような感情が渦巻いているのでしょうか。日常のささいな出来事さえも理解が難しくなり、不安や恐怖が生まれることが多くなります。本記事では、認知症の方が抱える主な不安について詳しく解説します。そして、お互いが心地よく過ごしていくために、私たちがどのように寄り添い関わればよいのかを考えていきます。

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1. 記憶がなくなることへの不安

認知症の初期段階では、自分の記憶が薄れていくことを自覚することが多く、「なぜ思い出せないのか」という焦りが強くなります。具体的には、次のような不安が挙げられます。

  • さっきまで何をしていたのか思い出せない。
  • 大切な人の名前や顔が分からなくなる。
  • 記憶が途切れることで、自分自身が分からなくなるような感覚に襲われる。

記憶が薄れる、分からなくなるという出来事は、自尊心が大きく低下します。また、焦りの他に恐怖も湧いてくるでしょう。

2. 時間や場所の感覚が分からなくなる不安

認知症が進行すると、時間や場所の認識が曖昧になり、自分がどこにいるのか分からなくなることがあります。

  • 「今は朝なのか、夜なのか分からない。」
  • 「ここはどこ?どうやって帰ればいいの?」
  • 「約束をしていた気がするけど、何だったのか思い出せない。」

このような状況は、まるで終わりのない迷子のような気持ちを引き起こし、大きな不安の要因となります。ウロウロと徘徊してしまうのも、このような状況が背景にあるのです。

3. 周囲の人が分からなくなる不安

家族や親しい友人でさえ、認識できなくなる(分からなくなってしまう)ことがあります。

  • 「この人は誰だろう?見たことがある気がするけど…。」
  • 「家族なのに他人のように感じる。」
  • 「知らない人に囲まれているような気がする。」

自分の周囲が信じられなくなると、孤独感や恐怖心が増し、人との関わりを避けるようになってしまうこともあります。

4. できなくなることが増える不安

今まで当たり前にできていたことが突然できなくなると、強い焦りと無力感に襲われます。

  • 「料理を作ろうと思ったのに、どうすればいいか分からない。」
  • 「服のボタンをとめるのが難しくなった。」
  • 「お金の計算ができなくなってしまった。」

このような不安は、日常生活の自立を失うことへの恐怖、自尊心の低下につながります。

5. 人から責められるのではないかという不安

記憶や判断力の低下が原因で、家族や周囲の人に迷惑をかけているのではないかと心配する方も多いです。

  • 「また同じことを聞いたら怒られるかもしれない。」
  • 「迷惑をかけてしまって、家族に嫌われるのでは…。」
  • 「人に頼らなければ生活できないことが申し訳ない。」

このような思いがストレスとなり、さらに混乱を招き、どうしたらいいか分からないという心境に至ることもあります。

6. 自分がどうなってしまうのか分からない不安

認知症が進行することで、未来が見えなくなることへの恐怖があります。

  • 「これからもっと悪くなってしまうのか。」
  • 「自分はどうなってしまうんだろう。」
  • 「いずれ家族のことも全部忘れてしまうのかもしれない。」

こうした不安を抱えながらも、それをうまく言葉にできないことが、さらなる孤独感を生んでしまいます。

7. 誰にも理解されないという不安

周囲に気持ちを分かってもらえないことも、大きな精神的負担となってきます。

  • 「周りの人は、私の気持ちを分かってくれない。」
  • 「説明しようとしても、言葉が出てこない。」
  • 「この気持ちを誰にも伝えられない。」

このような状況では、もどかしさを感じ、苛立ちを感じてくるようにもなります。積み重なると、易怒性、暴言、暴力に繋がってきます。

8. 認知症の病識の有無

日本では、認知症はアルツハイマー型認知症が多いため(アルツハイマー型は病識が乏しい)、認知症になったら何も分からなくなってしまい、病識が無いと思われがちです。しかし、認知症の方の中には、自分が認知症であることを自覚している場合(病識がある)と、まったく自覚がない場合(病識がない)があります。

病識がある場合の特徴

  • 記憶が曖昧になっていることを自覚し、強い不安を感じる。
  • 「自分が変わってしまうのではないか」という恐怖を抱える。
  • できなくなったことに対するストレスが大きく、抑うつ的になることがある。

病識がない場合の特徴

  • 自分に問題があるとは思っておらず、周囲の指摘に反発することがある。
  • できないことを周囲のせいにしてしまうことがある。
  • 症状が進行しても違和感を持たないため、介護の受け入れが難しくなることがある。

9. 認知症の方との最善な関わり方

以上のように、認知症の人の世界は、不安と焦りだらけです。まるで、竜宮城から帰ってきた浦島太郎のような心境を経験します。認知症の方が安心して日々を過ごせるように、また、私たちも安心して穏やかに過ごせるように、私たちができることはたくさんあります。

1. ゆっくり話し、簡単な言葉を使う

話す速度をゆっくりし、短い文章で話すことで理解しやすくなります。赤ちゃん言葉は厳禁です。あくまでも、尊厳を守ることがとても大切です。

2. 否定せず、共感する

「違うよ」「それは間違っている」と否定するのではなく、「そう思ったんだね」「大丈夫だよ」と受け入れることで、安心感を与えます。ただし、「そうだね」などの肯定する言葉は、妄想を拡大させる恐れがあるため注意する必要があります。否定せず、肯定せず、受け入れる(共感)ことを基本とします。

3. 焦らせず、本人のペースを尊重する

急かすと混乱を招くため、本人のペースを大切にし、できることはなるべく自分でやってもらうようにしましょう。

4. 昔の話を積極的にする

過去の記憶は残りやすいため、昔の話をすることで安心感を得られます。懐かしい写真や音楽も効果的です。

5. スキンシップを大切にする

手を握る、背中をさするなどの優しいスキンシップは、安心感を与え、不安を和らげる効果があります。

6. 環境を整える

混乱を防ぐために、家の中の配置をできるだけ変えず、見慣れた物を置くことで安心感を保つことができます。

認知症の世界に生きる人々が少しでも安心できるよう、私たちが寄り添うことが何より大切です。

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